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東京地方裁判所 平成2年(ワ)8264号 判決

愛知県一宮市今伊勢町本神戸字中町九六七番地

原告

伊藤富三

右訴訟代理人弁護士

水田耕一

右輔佐人弁理士

橋本公男

東京都世田谷区豪徳寺一丁目一八番一二号

被告

〓壽合名会社

右代表者代表社員

伊藤元明

右訴訟代理人弁護士

稲葉隆

永田水甫

東京都世田谷区豪徳寺一丁目一八番一二号

被告

有限会社東京理医学研究所

右代表者代表取締役

伊藤元明

東京都世田谷区豪徳寺一丁目一八番一二号

被告

伊藤元明

右被告ら三名訴訟代理人弁護士

松尾和子

大島功

杉浦秀樹

右輔佐人弁理士

木村三朗

主文

一  被告〓壽合名会社は、原告に対し、金一億〇六二三万三九二四円及び内金三六四八万七八一〇円に対する平成二年五月一日から、内金六九七四万六一一四円に対する平成元年四月一日から、それぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告有限会社東京理医学研究所及び被告伊藤元明は、連帯して金四二五七万七三七四円及びこれに対する平成二年三月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告〓壽合名会社は、その製造販売にかかる温熱治療器またはその容器、包装、広告に、別紙第一目録記載の文字からなる標章を使用し、又は右標章を付した温熱治療器もしくは右標章を付した容器、包装入りの温熱治療器を販売してはならない。

2  被告〓壽合名会社は、前項記載の標章を付した温熱治療器及びその容器、包装を廃棄せよ。

3  被告〓壽合名会社は、その製造販売にかかる熱源用線香の包装、広告に、別紙第二目録又は別紙第三目録記載の文字からなる標章を使用し、又はこれを付した包装入りの熱源用線香を販売してはならない。

4  被告〓壽合名会社は、前項記載の標章を付した熱源用線香の包装を廃棄せよ。

5  被告〓壽合名会社は、原告に対し、金五億七八八九万九六四〇円、及び内金一億五二三二万三八五〇円に対する平成二年五月一日から、内金四億二六五七万五七九〇円に対する平成元年四月一日から、それぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

6  被告有限会社東京理医学研究所及び被告伊藤元明は、各自、金五四四五万一八〇〇円及びこれに対する平成二年三月一六日から支払済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

7  訴訟費用は被告らの負担とする。

8  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、後記商標登録第四一七四五二号、第四二九五四三号及び第四三五五〇六号の商標権者である。

(二) 被告〓壽合名会社(以下「被告〓寿」という。)は、「健康療法イトオテルミー」の器具及び「イトオテルミー線」の製造販売及び出版業等を目的とする会社である。

(三) 被告有限会社東京理医学研究所(以下「被告研究所」という。)は、線香(熱源用)製造販売及び製造加工の技術の販売等を目的とする有限会社である。

(四) 被告伊藤元明(以下「被告元明」という。)は、昭和五一年一〇月二八日以来現在まで、被告研究所の代表者である。

2  原告の商標権

原告は次の各商標権を有している。

(一) 商標登録第四一七四五二号(以下「本件第一商標権」といい、その登録商標を「本件第一登録商標」という。)

(1) 出願年月日 昭和二五年六月三日

(2) 出願番号 商願昭二五-一二八二二号

(3) 出願公告年月日 昭和二七年六月四日

(4) 出願公告番号 昭二七-六九六八号

(5) 登録年月日 昭和二七年一〇月二五日

(6) 商品の区分 旧第一八類

(7) 指定商品 理化学、医術、測定、写真、教育用の器械、器具、眼鏡及び算数機の類並びにその各部

(二) 商標登録第四二九五四三号(以下「本件第二商標権」といい、その登録商標を「本件第二登録商標」という。)

(1) 出願年月日 昭和二七年三月二六日

(2) 出願番号 商願昭二七-六六八四号

(3) 出願公告年月日 昭和二八年四月二三日

(4) 出願公告番号 昭二八-六八二一号

(5) 登録年月日 昭和二八年八月一七日

(6) 商品の区分 旧第六七類

(7) 指定商品 燻料

(三) 商標登録第四三五五〇六号(以下「本件第三商標権」といい、その登録商標を「本件第三登録商標」という。)

(1) 出願年月日 昭和二七年三月二六日

(2) 出願番号 商願昭二七-六六八三号

(3) 出願公告年月日 昭和二八年七月三一日

(4) 出願公告番号 昭二八-一四四〇二号

(5) 登録年月日 昭和二八年一一月二五日

(6) 商品の区分 旧第一類

(7) 指定商品 化学品、薬剤(但し、水剤、粉末薬、錠剤、丸薬、セメン菓子を除く)

(四) 右(一)ないし(三)の各登録商標は、それぞれ別紙商標公報(一)ないし(三)記載のとおりであって、いずれも片仮名「イトオテルミン」及び漢字「登録商標」の各文字並びに温熱治療用の器具二本を斜めに交差させた図形から成っている。

3  被告〓寿及び被告研究所の標章の使用

(一) 被告〓寿は、昭和五五年七月一日から平成二年四月三〇日までの間、その製造にかかる温熱療法用の治療器(以下「本件第一商品」という。なお、以下、温熱療法用の治療器を「温熱治療器」という。)及びその容器、包装に別紙第一目録記載の標章(以下「本件第一標章」という。)を付して販売し、かつこれを雑誌等における本件第一商品の広告において使用した。

(二) 被告〓寿は、昭和五五年七月一日から平成元年三月三一日までの間、その製造にかかる、温熱治療器の熱源として使用される線香状の商品(以下「本件第二商品」という。なお、以下、温熱治療器の熱源として使用される線香状の商品を「熱源用線香」という。)の包装に別紙第二目録記載の標章(以下「本件第二標章」という。)又は別紙第三目録記載の標章(以下「本件第三標章」という。)を付して販売し、かつこれを雑誌等における本件第二商品の広告において使用した。

(三) 被告研究所は、平成元年四月一日から平成二年三月一五日までの間、本件第二商品の包装に本件第二標章を付してその販売をした。

(四) 本件第一標章は別紙第一目録記載のとおりであって、漢字「〓寿」及び片仮名「イトオテルミー」の各文字の結合から成るものである。本件第二標章は別紙第二目録記載のとおりであり、本件第三標章は別紙第三目録記載のとおりであって、いずれも漢字「〓寿」、片仮名「イトオテルミー」及び漢字「線」の各文字の結合から成るものである。

4  本件各標章と本件各登録商標との対比

(一) 本件第一標章について

本件第一登録商標からは「イトオテルミン」の称呼を生ずる。これに対し、本件第一標章は漢字「〓寿」と片仮名「イトオテルミー」から成り、異種の字体による文字の結合からなる場合は、両者は分離して認識され、また現代の取引者・需要者において「〓寿」の意味を理解しうる者は皆無に等しく、一方「イトオテルミー」は一体としての造語であって、この部分が取引者・需要者の注意を引き、出所識別機能を有する要部であるから、本件第一標章からは「イトオテルミー」の称呼が生ずる。そして、本件第一登録商標の称呼である「イトオテルミン」と、本件第一標章の称呼である「イトオテルミー」とは、語頭から六音までが一致し、語尾において撥音と長音の差異があるにすぎないから、両者は称呼上類似することが明らかである。

したがって、本件第一標章は本件第一登録商標に類似する。

(二) 本件第二標章及び本件第三標章について

本件第二登録商標及び本件第三登録商標からは「イトオテルミン」の称呼が生ずる。これに対し、本件第二標章及び本件第三標章は、前記のとおり「〓寿」と「イトオテルミー」とは独立に認識され、「線」は普通名称にすぎないから、本件第二標章及び本件第三標章からは、要部として「イトオテルミー」の称呼が生ずる。そして、本件第二登録商標及び本件第三登録商標の称呼である「イトオテルミン」と、本件第二標章及び本件第三標章の称呼である「イトオテルミー」とは、語頭から六音までが一致し、語尾において撥音と長音の差異があるにすぎないから、両者は称呼上類似することが明らかである。

したがって、本件第二、第三標章は、本件第二、第三登録商標に類似する。

5  本件第一商品は、本件第一登録商標の指定商品中、「医術の器械器具」に該当ないし類似する。また、本件第二商品は、本件第二登録商標の指定商品「燻料」及び本件第三登録商標の指定商品「化学品、薬剤」に該当ないし類似する。

6  本件各標章の使用等差止めの必要性

被告〓寿は、現在は本件各標章の使用等を中止しているが、温熱療法用の器具については、薬事法に基づく名称の変更申請に対する承認は一か月余りの期間で簡単に得られるものであり、熱源用線香については、薬事法に基づく規制もないから、被告〓寿は自由に名称を変更しうるのであって、いずれの場合においても、被告〓寿が元の標章に戻すことには何らの支障もない。また本件各標章を表示した刻印は容易に製作しうるから、その廃棄は元の標章を使用するうえで、何らの妨げとなるものではない。更に、被告〓寿は、その系列下に「イトオテルミー親友会」なる組織を有し、この組織及び名称を使用して、本件各商品の販売活動及び販売宣伝活動を活発に行っており、本件各商品に添えて需要者に交付している小冊子(甲第三五号証)においても、「家庭療法〓寿イトオテルミー要義」との標題を付しているのであるから、被告〓寿において、本件各商品につき再び「イトオテルミー」の語を含む本件各標章を使用する可能性は極めて大きい。

よって、原告が被告〓寿に対し、本件各標章の使用の差止めを求める必要性はなお存在する。

7  被告〓寿らの故意過失

(一) 被告〓寿は、昭和五五年七月一日から平成二年四月三〇日までの間、本件第一標章を本件第一商品及びその容器、包装に付して同商品を販売するに当たり、その行為が本件第一商標権を侵害することを知り、または過失により知らなかったものである。

(二) また、被告〓寿は、昭和五五年七月一日から平成元年三月三一日までの間、本件第二標章又は本件第三標章を本件第二商品及びその容器、包装に付して同商品を販売するに当たり、その行為が本件第二又は第三商標権を侵害することを知り、または過失により知らなかったものである。

(三) 被告元明は、被告研究所の代表者として、被告研究所の職務を執行するに当たり、平成元年四月一日から平成二年三月一五日までの間、本件第二又は第三商標権を侵害することを知り、または過失により知らずして、本件第二標章を本件第二商品及びその容器、包装に付して同商品を販売したものである。

8  損害

(一) 販売額

(1) 本件第一商品の販売額

被告〓寿が昭和五五年七月一日から平成二年四月三〇日までの間に本件第一商品を販売した額の合計額は、以下のとおり、金一五億二三二二万八五〇〇円となる。

すなわち、被告〓寿による本件第一商品の販売数量は、別紙「〓寿イトオテルミー冷温器年度別販売数推移表」に記載のとおりである(昭和六〇年八月までの数字は乙第二〇号証により、昭和五〇年九月から昭和六〇年八月までの一〇年間の年間平均数を算定し、これと同一の数量と推定した。)。

被告〓寿による本件第一商品の販売価額は、金属容器入りのものについては、一組当たり金六五〇〇円であるところ、その販売数量は、前記期間を通じて平均年二万一〇〇〇組であるから、計二〇万六五〇〇組となり、その販売額は一三億四二二五万円となる。また、金属容器に入れないものについては、一組当たり金三五〇〇円であるところ、その販売数量は、前記期間を通じて平均年五万一七一一組であるから、その販売額は一億八〇九八万八五〇〇円となる。

以上により、本件第一商品の前記販売期間中における販売額の合計は、金一五億二三二三万八五〇〇円である。

(2) 被告〓寿による本件第二商品の販売額

被告〓寿が昭和五五年七月一日から平成元年三月三一日までの間に本件第二商品を販売した額の合計額は、以下のとおり、金四二億六五七五万七九〇〇円となる。

すなわち、被告〓寿による本件第二商品の販売数量は、別紙「〓寿イトオテルミー線年度別販売数推移表1」に記載のとおりである(推計の点については(1)と同様である。)。

被告〓寿による本件第二商品の販売価額は、前記販売期間中、昭和五五年七月一日から昭和五八年八月三一日までが一〇〇本当たり平均金八〇〇円、昭和五八年九月一日から平成元年三月三一日までが平均金九〇〇円である。

よって、昭和五五年七月一日から昭和五八年八月三一日までの販売数計一億三三五七万六二六六本を一〇〇で除して、一〇〇本以下を切り捨て、これに八〇〇円を乗ずれば、金一〇億六八六〇万九六〇〇円となり、また昭和五八年九月一日から平成元年三月三一日までの販売数計三億五五二三万八七〇〇本を一〇〇で除して、これに九〇〇円を乗ずれば、金三一億九七一四万八三〇〇円となる。

以上により、本件第二商品の前記販売期間中における販売額の合計は、金四二億六五七五万七九〇〇円である。

(3) 被告研究所による本件第二商品の販売額

被告研究所が平成元年四月一日から平成二年三月一五日までの間に本件第二商品を販売した額の合計額は、以下のとおり、金五億四四五一万八〇〇〇円を下らない。

すなわち、被告研究所による本件第二商品の販売数量は、別紙「〓寿イトオテルミー線年度別販売数推移表2」記載のとおりであり、その販売数は、六〇五〇万二〇〇〇本と推定される。

被告研究所による本件第二商品の平成元年四月一日から平成二年三月一五日までの間における販売価額は一〇〇本当たり平均金九〇〇円である。

よって、右期間中の販売数六〇五〇万二〇〇〇本を一〇〇で除したものに九〇〇円を乗ずれば、販売額の合計は金五億四四五一万八〇〇〇円となる。

以上により、被告研究所による本件第二商品の前記販売期間中における販売額の合計は、金五億四四五一万八〇〇〇円である。

(二) 通常使用料率

被告〓寿は、本件第一、第二商品について本件第一、第二標章を、被告研究所は、本件第二商品について本件第三標章をそれぞれ使用して、これらを販売することにより、販売額の二五%に達する高い利益を得ているのであって、これは、温熱治療を行う需要者の間に高い顧客誘引力を有する本件各登録商標に類似する本件各標章を使用することにより、本件各商品に高い顧客誘引力を生じさせ、有利な価額をもって本件商品の販売をすることができたことによるものである。このような高い利益率に鑑みると、本件各登録商標について、原告が登録商標の使用に対して通常受けるべき金銭の額は、販売額の一〇%に相当する額を下らないものというべきである。

(三) 原告の受けた損害額

(1) 本件第一商品について

昭和五五年七月一日から平成二年四月三〇日までの間における被告〓寿による本件第一商品の前記販売額金一五億二三二三万八五〇〇円に右の通常使用料相当額の販売額に対する比率一〇%を乗ずれば、通常使用料相当額は金一億五二三二万三八五〇円となる。

(2) 本件第二商品について

〈1〉 被告〓寿による昭和五五年七月一日から平成元年三月三一日までの間における本件第二商品の前記販売額金四二億六五七五万七九〇〇円に右の通常使用料相当額の販売額に対する比率一〇%を乗ずれば、通常使用料相当額は金四億二六五七万五七九〇円となる。

〈2〉 被告研究所による平成元年四月一日から平成二年三月一五日までの間に本件第二商品の前記販売額金五億四四五一万八〇〇〇円に右の通常使用料相当額の販売額に対する比率一〇%を乗ずれば、通常使用料相当額は金五四四五万一八〇〇円となる。

(3) したがって、被告〓寿らの本件各商標権侵害行為によって受けた原告の損害額は、右の通常使用料相当額である(商標法三八条二項)。

9  よって、原告は、被告〓寿に対し、本件第一、第二商標権侵害による差止請求権に基づき、本件各標章の使用の差止めを求めるとともに、右各商標権侵害による損害賠償請求権に基づき、五億七八八九万九六四〇円の支払と、内金一億五二三二万三八五〇円に対する不法行為の日の後である平成二年五月一日から、内金四億二六五七万五七九〇円に対する不法行為の日の後である平成元年四月一日から、それぞれ支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告研究所及び被告元明に対し、本件第三商標権侵害による損害賠償請求権に基づき、連帯して五四四五万一八〇〇円の支払及びこれに対する不法行為の日の後である平成二年三月一六日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(四)の事実は認める。

2  同2(一)ないし(四)の事実は認める。

3  同3(一)ないし(四)の事実は認める。

なお、被告〓寿及び被告研究所が製造販売したのは熱源用の「線」であって、「線香」ではない。

4(一)  同4(一)、(二)は争う。

(二)  本件各商標は、次に述べるとおり、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても、本件各登録商標に類似しない。

(1) 本件各標章中、「〓寿」の語は、訴外伊藤金逸(以下「金逸」という。)が明治四一年に開設した「〓寿堂医院」に因んだものであり、「〓」は「高きに上ること」、「寿」は「長生きすること」を意味し、したがって「〓寿」は「健康で長生きすべく努あること」を意味する造語である。片仮名の「イトオテルミー」の語は、金逸の創見に係る温熱療法の名称であるが、「イトオ」はありふれた姓である「伊藤」を意味し、「テルミー」は温熱療法を意味する医療上の用語である。さらに、本件第二標章及び本件第三標章中の「線」は、これら標章が使用される商品の形状が線状をなしている熱源用の線であることを意味する普通名称である。このように「イトオ」の語はありふれた姓、「テルミー」及び「線」は普通名称であるから、「イトオテルミー」ないし「イトオテルミー線」の語自体は、用途、形状又は性質を示すものであって、自他商品を識別する力の極めて薄弱な部分である。したがって、本件各標章の識別性を有する要部は「〓寿」の語にあるというべきである。

(2) 本件各登録商標は、いずれも、温熱治療器を象って創作したX字状の図形と、その中央部に片仮名筆記体、縦書きで「イトオテルミン」と書した図形と文字の結合になる商標であり、右文字は、右図形の約三分の一の大きさで表示されているが、このような商標全体を覆うX字状の図形は、特殊な商品の形状として需要者の目に強く印象付けられるので、需要者にとって「X字状の図形」印又は「X字状の図形とイトオテルミン」印が観念又は連想される。したがって、本件各登録商標の自然に生ずる称呼は「X状図形」印及び「イトオテルミン」である。

(3) そこで、本件各登録商標と本件各標章とを対比してみると、以下のとおり類似しない。

本件各標章は、文字のみからなる商標「〓寿イトオテルミー(線)」であるのに対し、本件各登録商標は、X字状に組み合わせた器具の図形とイトオテルミンの文字を結合した商標であるから、外観上、非類似であることは明らかである。

本件各標章は、「〓寿」印の金逸創見に係る温熱療法、又はこれに使用する熱源用線香を連想させるのに対し、本件各登録商標は、「X字状の図形」印又は「X字状の図形とイトオテルミン」印が観念されるのであり、更に、医術関係の分野においては、通常、語尾の「ミン」は薬自体を、語尾の「ミー」は療法を表すものとして明瞭に区別されているから、この点からも、本件各標章と本件各登録商標とを観念において混同する余地はなく、観念上も非類似である。

本件各標章の要部は、前記のとおり、医術関係の分野においては、通常、語尾の「ミン」は薬自体を、語尾の「ミー」は療法を表すものとして明瞭に区別されており、また温熱治療器等の需要者は、温熱療法に係わる医師、療術師、指導員及び被術者等であるから、これら需要者は「イトオテルミー」と「イトオテルミン」との称呼の相違を敏感に認識し、両者を混同する筈はないとみるのが合理的である。

(4) 本件各標章が使用される温熱療法用器具及び熱源用線は、いずれも親友会という被告らの堅固な会員組織を販売ルートとするものであり、市販されるものではない。また、その親友会の会員になることについても、事前にイトオテルミー施術に関する指導が行われており、その指導は入会希望者の資質に応じて、施術の方法を十分に知得するまで行われ、そのうえで入会希望者に入会の手続を取らせることが会則で定められている。したがって、本件各商品の需要者は、金逸の創見にかかる温熱療法に関係する医師、療術師、指導員及び被術者等であり、また一方、原告も温熱治療器等を聖道会という会員組織を通じて販売するものであるから、これらの需要者は、原告と被告らの各組織の相違を充分に認識し、また販売ルートも異なるのであるから、商品の出所について混同することはない。

(5) 以上を総合すると、本件各標章と本件各登録商標は、外観、観念及び称呼のいずれの点においても類似せず、全体として対比した場合、両者間に出所につき混同を生ずるおそれはない。

5(一)  同5は争う。

(二)  本件各商品は、以下に述べるとおり、本件各登録商標の指定商品に該当又は類似しない。

(1) 本件第一登録商標の指定商品と本件第一商品について

本件第一商品が旧第一八類の理化学用機械器具に該当しないことはいうまでもなく、また、金逸創見に係る温熱治療器が医術用器械器具の一種といえるとしても、本件第一登録商標が登録された当時の類似商品例集(昭和七年制定)には規定されていないから、当時の「医術用器械器具」には該当せず、せいぜい類似関係にあったにすぎない。

(2) 本件第二登録商標の指定商品と本件第二商品について

本件第二登録商標の指定商品は、右商標が登録された当時の類似商品例集(昭和二八年改定)に示される「第六十七類 燻料」であり、「線香、〓香、粉末香、蚊除〓香、蚊除粉末香等」であるが商品分類の変遷に照らせば、「燻料」は、火力によって香気を発する線状、片状又は粉末状の香料を意味するものである。

これに対し、本件第二商品は、温熱療法に用いる熱源用の線であって、人体に対する治療的効果を得ることを目的とするものであり、芳香を目的とするものではないから、形状は線状をなしていても、商標上の商品としては、前記「燻料」に該当するものではない。また原材料、用途、販売店を異にするから、類似の商品でもない。

(3) 本件第三登録商標の指定商品と本件第二商品について

本件第三登録商標の指定商品は別紙類似商品例集(昭和二八年改訂)抜粋に記載のとおりである。

これに対し、本件第二商品は、杉葉粉、艾、塩化石灰等を原料として製造するものであるから、本件第三登録商標の指定商品の「化学品」及び「薬剤」に該当せず、また類似商品でもないことは明らかである。

6(一)  同6は争う。

(二)  被告〓寿は、本件各標章の使用を中止しているから、原告が被告〓寿に対して本件各商品の販売を差止めを求めることは許されない。すなわち、被告〓寿は、平成二年三月六日、薬事法一八条所定の医療用具製造品目変更許可申請書を厚生大臣に対して提出し、昭和五二年四月一三日許可の〓寿イトオテルミー冷温器を廃止し、医療用具品目の変更の許可を申請したところ、右申請は平成二年四月二〇日付けで許可された。被告〓寿は、右申請と併せて、平成二年三月六日、薬事法一四条四項所定の医療用具製造承認事項一部変更承認申請書を厚生大臣に対して提出し、温きゅう器の販売名を「〓寿イトオテルミー冷温器」から「〓寿テルミー冷温器」へ変更する旨申請したところ、右申請が同年四月二〇日付けで、承認番号(四七B)第〇六六四号のもとに承認された。被告〓寿は、右許可申請と同時に本件各標章の使用を中止し、平成二年四月二七日から、「〓寿テルミー冷温器」の標章を付して本件第一商品の製造を開始し、同年五月六日から出荷した。また、本件第二商品については、薬事法上の問題がないため、被告研究所が、「〓寿イトオテルミー線」から「〓寿テルミー線」へ変更し、平成二年三月一六日から出荷している。さらに、平成二年五月二日までに本件各標章を表示した刻印は廃棄され、この時点で、本件各標章が付された製品、容器、包装及び広告はすべて存在しなくなった。したがって、仮に、被告〓寿が今後本件各標章を使用して本件各商品を販売すれば、薬事法に違反するのであり、被告〓寿としても、薬事法に違反してまで本件各標章を使用する意思は毛頭有していないし、本件各標章を用いて商品の宣伝、広告をすることはあり得ない。

7  同7(一)ないし(三)は争う。

8(一)(1) 同8(一)(1)は争う。

本件第一商品の昭和六二年七月から平成二年四月末日までの売上数量と販売額は左記のとおりであるから、総売上額は三億六六三九万五五〇〇円である。

〈1〉 金属性容器入りのもの(販売合計額 二億二七〇七万八二〇〇円)

販売先 販売個数 平均単価 販売額

東京関係 一万七〇四六個 六三〇〇円 一億七〇三八万九八〇〇円

江田島関係 二万三〇一七個 五二〇〇円 一億一九六八万八四〇〇円

〈2〉 金属性容器入りでないもの(販売合計額 一億三九三一万七三〇〇円)

販売先 販売個数 平均単価 販売額

東京関係 二万〇五二九個 三三〇〇円 六七七四万五七〇〇円

江田島関係 二万六五〇八個 二七〇〇円 七一五七万一六〇〇円

(2) 同8(一)(2)は争う。

本件第二商品については、昭和六二年七月から平成元年三月三一日までの売上数量と販売額は左記のとおりであるから、総売上額は六億九七三九万一〇六〇円である。

〈1〉 一〇〇本入りのもの(販売合計額 二億八五七〇万七二〇〇円)

販売先 販売個数 平均単価 販売額

東京関係 九万三〇四八箱 九二〇円 八五六〇万四一六〇円

江田島関係 三一万二六六一箱 六四〇円 二億〇〇一〇万三〇四〇円

〈2〉 三〇〇本入りのもの(販売合計額 四億一一六八万三八六〇円)

販売先 販売個数 平均単価 販売額

東京関係 九万四二四一箱 二六六〇円 二億五〇六八万一〇六〇円

江田島関係 八万九四四六箱 一八〇〇円 一億六一〇〇万二八〇〇円

(3) 同8(一)(3)は争う。

本件第二商品については、平成元年四月一日から平成二年三月一五日までの売上数量と販売額は左記のとおりであるから、総売上額は四億二五七七万三七四〇円である。

〈1〉 一〇〇本入りのもの(販売合計額 一億六三一八万二六四〇円)

販売先 販売個数 平均単価 販売額

東京関係 五万一七九四箱 九二〇円 四七六五万〇四八〇円

江田島関係 一八万〇五一九箱 六四〇円 一億一五五三万二一六〇円

〈2〉 三〇〇本入りのもの(販売合計額 二億六二五九万一一〇〇円)

販売先 販売個数 平均単価 販売額

東京関係 五万五七三五箱 二六六〇円 一億四八二五万五一〇〇円

江田島関係 六万三五二〇箱 一八〇〇円 一億一四三三万六〇〇〇円

(二) 請求原因8(三)は争う。

仮に、被告らに損害賠償責任が認められるとしても、被告らの得た利益は、被告らの独自の営業努力、営業活動の成果であって、本件各標章の使用を理由するものではないし、原告は、被告が本件各標章を使用したことにより、格別損害を被ったものでもないのであるから、原告が受けるべき通常使用料の率は、販売額の〇・二%を上回るものではないとするのが相当である。

(三)(1) 同8(三)(1)は争う。

本件における通常使用料相当額は、右のとおり販売額の〇・二%を上回ることはなく、本件各商品の販売数量、単価等は前記のとおりであるから、原告が被告〓寿から通常受けるべき金銭の額は、本件第一商品については七三万二七九一円、本件第二商品については一三九万四七八二円にすぎないものである。

(2) 同8(三)(2)は争う。

本件における通常使用料相当額は、右のとおり販売額の〇・二%を上回ることはないから、原告が被告研究所及び同元明から通常受けるべき金銭の額は、本件第二商品について八五万一五四七円にすぎない。

(3) 同8(三)(3)は争う。

三  被告らの主張

1  商標法二六条一項二号の主張

本件各標章は、「〓寿イトオテルミー(線)」の語からなる標章であるが、「〓寿」は右各標章の要部をなすものであり、「イトオテルミー」の語は、金逸の考案した温熱療法を意味する普通名称であり、「線」が右温熱療法に用いる熱源用の線を意味する普通名称であって、商品の普通名称、品質、用途等を示す語を商標の構成要素の一部とする表示である。そして、本件各標章においては、「イトオテルミー」の語は特に目立たせることなく「〓寿」及び「線」の語と一連に記載され、一商標を構成するように調和を保って表示されている。したがって、本件各標章は商標法二六条一項二号所定の「商品の普通名称、品質、用途又は形状」を「普通に用いられる方法で表示する商標」に該当し、本件各商標権の効力は、本件各標章には及ばない。

2  権利濫用の抗弁

原告の本訴請求は、以下のとおり、権利濫用であるから許されない。

(一) 原告は、本件第一及び第二登録商標の商標権を保有し、かつ温熱治療器等を独占的に製造販売していた国産治術イトオテルミー合名会社(以下「国産治術社」という。)及びその需要者の組織である聖道会を主宰して、右商標権を使用しうる立場にあったものであるが、自らの怠慢と会員に対する不誠実な言動によって温熱治療器等の生産を不能にさせ、かつ聖道会の解散を余儀なくさせたのであって、その責任は専ら原告に帰因する。すなわち、原告は、金逸のイトオテルミー療法普及の遺志を無視し、温熱治療器等の供給を怠ったうえ、「東京は東京でやったらどうだ。」などと被告ら側で製造販売することを容認するような言動をとったので、金逸の遺志を継承した長男京逸及び地主子夫妻が、これを座視するに忍びず、大方の要望に応えて温熱治療器等の製造に踏み切ったのであり、この療法普及は、その後、金逸の孫である被告元明に引き継がれたのである。後記(二)のように、原告が、被告〓寿が温熱治療器等を製造することを容認せざるを得なかったのは、右のような引け目があったからであり、積極的に振る舞うわけに行かなかったからである。伊藤家としては、金逸のイトオテルミー療法を普及させることが一族の生命であるから、その責務を果たさなかった原告は強く咎められるべきである。

(二) 被告〓寿は、昭和四五年から温熱治療器等を製造販売し、会員の需要に応えるため種々の努力を積み重ねてきたのであり、原告は、このことを知悉していたにもかかわらず、昭和五四年五月に異議を唱えるまで容認していたものである。

(三) 本件各標章は、被告〓寿の製造する温熱治療器等に付せられたものであることは、需要者の組織が会員組織によっているため需要者は熟知しているのであるから、本件各登録商標権を原告が保有しているとしても、被告の本件各商品の出所について、その需要者が混同するということは有り得ないことである。

(四) 原告は、聖道会が解散されて以来、本件各登録商標を使用していない。原告は、金逸の遺産分割に端を発し、イトオテルミー療法の会員が被告側に集まったことを遺恨に思って本訴を提起したものである。

3  軽過失の参酌

原告は本件各標章を十分利用できないようにしたことについて自ら怠慢であったのであり、被告に対する権利主張を速やかに行わなかったことにも怠慢がある。これに対し、被告らは、本件各標章を使用するについて、誠意と努力と独自の才能があったのであり、かつその需要者は会員組織の下にあるから、原告にいかなる損害があったか理解できないものであるが、仮に、原告に損害があるとしても、極めて軽微であるというべきであり、被告らには何らの故意がなく、あるいはその過失は軽微なものであるから、商標法三八条三項後段が適用されるべきであり、損害賠償額は限りなく零に近いものとして算定されるべきである。

4  過失相殺

仮に、被告らに損害賠償責任があるとしても、原告にも損害の発生の過程及び損害の拡大について過失があるから、過失相殺されるべきである。すなわち、前記2のとおり、原告は、義兄である京逸を通じて被告〓寿に対し、本件各標章の使用を容認したと解される言動をしたため、京逸は、被告〓寿をして右各標章を使用させたのであり、しかも、原告は、その使用後一〇年を経過して、初めてその使用に異議を述べたのである。もともと、被告〓寿が右標章を使用せざるを得ない原因は、原告自らの怠慢によるものであって、本件各商品が需要者の健康にあるにもかかわらず、原告の怠慢によりその供給が断たれたたあ、会員が被告〓寿らにその供給を求めたのであるから、仮に、原告の損害賠償請求が認めうるとしても、被告らに商標権侵害を行うことについては何らの故意はなく、自己の行為が許されたと解したことについて軽過失が存するのみである。

右のとおり、被告〓寿らに権利侵害行為を行わせた過程に過失があり、もしくは損害の拡大に対して容認したものであることは明らかであるから、過失相殺がなされるべきである。

5  消滅時効の抗弁

(一) 原告は、被告〓寿に対し、本件各標章に関する昭和五五年七月一日から平成二年四月三〇日又は平成元年三月三一日までの通常使用料相当の損害金を請求している。

しかしながら、右請求は、少なくとも、昭和六二年七月九日以前の部分については三年を経過しており、時効により消滅している。

よって、被告〓寿は、右時効を援用する。

(二) 原告は、本件各商品の一組又は一箱販売するごとに侵害行為が成立し、原告は、その個々の侵害行為及び損害の全容を知らないから、時効の進行を考える余地がない旨強弁するが、もとより、民法七二四条の立法趣旨が、権利行使をしうる程度に加害者及び損害を知った被害者が、これを長らく放置する場合は、法的保護を与える必要がないというものであり、被害者が損害の程度や数学を具体的に知ることを必要としないとするのが判例、通説である。

これを本件についてみるに、被告〓寿の本件商標権使用は継続的かつ定型的なものであり、また、原告は、昭和五九年八月に本訴を提起しているのであるから、原告は十分にその内容を知っていたものであることは多言を要しないものである。

四  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1(商標法二六条一項二号)は争う。

商標法二六条一項二号にいう「品質」ないし「用途」の表示とは、その表示自体がその種の商品につき一般的に認められている品質ないし用途を表現している場合を指すものであり、当該品質ないし用途がある種の商品について共通に具備される品質又は共通に供される用途であることを要するのであって、商標権者が当該商標を付した商品を販売するに当たり、当該商標に類似する名称を造語して、その商品の用途として命名した如き場合における用途の表示は、商標法二六条一項二号にいう「品質」ないし「用途」の表示に該当しないというべきである。けだし、右の場合における用途の名称は、特定の商標を付した商品に独特のものであって、他の商品についてその使用を認める必要がないとともに、他の商品についてその使用を認めるときは、かえって商品の混同を生ずるおそれがあるからである。

本件においては、そもそも、本件各商品と同種の商品について、「イトオテルミー」ないし「イトオテルミー線」の語が、これと同種の商品につき一般的な用途及び形状ないし品質を表すものとして使用されている事実がなく、被告らの主張は成立の余地がない。

2  被告らの主張2(権利濫用)は争う。

被告らの権利濫用の主張は、故意又は過失により本件商標権侵害を認めた上での主張であるはずのところ、被告らの主張する事実はそのような商標権侵害行為をあえてした経緯の説明にとどまり、損害賠償責任を免れるべき理由についてはまったく触れるところがなく、しかも、被告らが商標権侵害をあえてした理由とするところは、被告らが本件各商品の製造、販売を行ったことへの理由付けとなりえたとしても、本件商標権を侵害してまで、本件各商品を販売する理由とはなりえないものであることは明らかである。

また、被告らは、本件各標章の使用を中止し、平成二年四月二七日以降、「〓寿テルミー冷温器」の標章を付して本件第一商品を、また同年三月一六日から「〓寿テルミー線」の標章を付して本件第二商品を製造、販売している旨主張するが、そうであるとすれば、被告らは、本件商標権侵害をあえてしてまで本件各商品を製造、販売する必要がもともとなかったことを自認するに等しいものといわなければならない。

したがって、被告らの権利濫用の主張は理由がないことが明らかである。

3  被告らの主張3(軽過失参酌)は争う。

被告らは、原告が被告らに権利侵害行為を行わせた過程につき、少なくとも過失がある旨主張するが、過失とは注意義務に違反し、法律の要求する一定程度の注意を欠いたため予見可能な事実を認識しなかった心理状態をいうものであるところ、被告らは、右注意義務の内容についても、また、原告が如何なる注意義務を欠いたかについても具体的な主張は全くないから、その主張は理解しがたいものである。

4  被告らの主張4(過失相殺)は争う。

被告らは、損害額の減額について主張するが、その主張は具体性を欠き、無意味な主張と評すべきである。のみならず、商標法三八条三項後段による損害賠償額の減額は、使用料相当額を超える損害賠償の請求があったときに認められるものにすぎないから、その点からしても、被告らの主張は失当である。

5  被告らの主張5(消滅時効)は争う。

原告は、被告〓寿による個々の商品の販売行為及びこれによる損害の全容について知りえないから、本件各商標権侵害行為に基づく原告の損害賠償請求権については、時効の進行を考える余地がない。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各登録商標と本件各標章との類否について検討する。

1  本件各標章の要部について

本件第一標章は、別紙第一目録記載のとおりであって、漢字「〓寿」及び片仮名「イトオテルミー」との結合から成っているが、漢字と片仮名という異種の文字が結合されたものであるし、「〓寿」部分は、後記のように文字自体や読み方が難解であって、「イトオテルミー」部分と一連に称呼されることはないから、本件第一標章は、「〓寿」部分と「イトオテルミー」部分とが強く結びついたものではなく、両部分は分離して認識されるのが通常であるというべきである(被告らもこの点は争っていない。)。そして、「〓寿」の「〓」の字は文字自体難解であるばかりか、読み方やその意味するところも難解であって、そのためこれに続く「寿」は文字、読み方及び意味はさほど難解ではないものの、これら二つの文字が組み合わさった「〓寿」は、読み方やその意味するところが難解であって、一般の需要者・取引者においては容易に称呼することはできないし、また特定の観念が生ずることも困難である。これに対し、「イトオテルミー」は片仮名から成るものであって、読みやすいうえ、一文字当たりの画数が「〓寿」に比べて少なく、余白部分が多いため外観上も「イトオテルミー」部分が目につき、漢字で二文字の「〓寿」は「イトオテルミー」の冠詞のように付加され、従たる印象を与えているものであって、本件第一標章の要部は「イトオテルミー」にあるというべきである。

本件第二、第三標章は、別紙第二、第三目録記載のとおりであって、いずれも漢字「〓寿」、片仮名「イトオテルミー」及び漢字「線」の結合から成るものであるが、本件第二標章にあってはこれらの文字が一列に記載されているのに対し、本件第三標章にあっては「〓寿」が「イトオテルミー線」の左上に記載されて二段構成になっている。漢字「〓寿」と片仮名「イトオテルミー」とは前記のとおりであり、また本件第二、第三標章は、いずれも熱源用線香の包装等に使用されたものであるから、「線」の部分は、その形状が線状であることを示すものであって、当該商品の種類、性質又は形状を示すものであり、この部分には自他商品の識別機能はないといわなければならない。したがって、本件第二、第三標章においても、本件第一標章と同じく、その要部は「イトオテルミー」の部分にあるというべきである。

被告らは、「イトオテルミー」は、「イトオ」はありふれた伊藤姓を表すのみであり、「テルミー」は温熱療法を表す医療用語であって、本件各商品の使用される用途及び形状ないしは性質を表示しているにすぎず、いずれも自他商品を識別する機能を有しないのに対し、「〓」は高きに上ることを、「寿」は長生きを、それぞれ意味するものであって、「〓寿」は健康で長生きをすることを意味する造語であり、本件各標章において特徴的な部分であるから、その要部は「〓寿」にある旨主張する。しかしながら、成立に争いがない乙第一号証の一ないし七によれば、金逸が、その著書において、その考案にかかる温熱療法「イトオテルミー」の語義を説明するに当たり、「イトオ」は金逸の姓である伊藤であり、テルミーは、治療に用いる語としたうえ、テルミーは、文字上は、ギリシャ語に発するドイツ語のテルミッシュ、テラピー又はテルモクール温治等に由来するが、発明品自体の効果から見る時はこれらの語は当たらず、日本灸及び鍼、光線、マッサージを兼ねる方法を併用するものである旨を記述していることが認められ、これによれば、「イトオテルミー」なる語は、金逸の考案にかかる独特の温熱療法の名称として造られた語であって、もともと特定の観念を生じないものであり、商品の用途、形状又は性質を表しているとはいえないことが明らかである。また、「〓寿」なる語も、それ自体としては造語であって、有意の熟語でもなく、特定の観念を生じないものであるから、その意味内容をもって特徴的であるということはできない。前記説示のとおり、本件各標章の要部は「イトオテルミー」の部分にあるというべきであり、被告らの前記主張は採用することができない。

2  そこで、本件各標章と本件各登録商標とを対比するに、本件各標章の構成が前記のとおりであるのに対し、本件各登録商標の構成は、別紙商標公報(一)ないし(三)のとおりであって、いずれも片仮名「イトオテルミン」及び漢字「登録」と漢字「商標」の各文字並びに温熱治療器二本を斜めに交差させた図形からなり、「イトオテルミン」は右図形の中央部に右図形の上に縦書きされ、漢字「登録」は右図形の右側に、漢字「商標」は右図形の左側にそれぞれ縦書きで配置されているから、両者は外観において類似しないことは明らかである。また、本件各標章の「イトオテルミー」は、造語であって、客観的に特定の意味を有せず、本件各登録商標の「イトオテルミン」もまた造語であって、客観的に意味のある特定の観念が生ずるものと認めがたいから、本件において、本件各標章と本件各登録商標の観念の類否を比較することは無意味である。

しかしながら、称呼についてみるに、本件各登録商標は、右のとおり、右図形と、片仮名「イトオテルミン」、漢字「登録」及び「商標」からなるものであるところ、右図形は、金逸が考案した温熱療法に使用する器具を図形化したものであり、特異な形態であって、右図形自体からは特別な称呼を生じないものというべきであり、他方、本件各登録商標においては、あたかも右図形の称呼を示すかのように「イトオテルミン」と中央部分に書かれていることを考慮すると、本件各登録商標からは、文字の部分から称呼が生ずるものというべきであり、「登録」及び「商標」は普通名詞であるうえ、両者を併せてみれば、当該商標が商標登録されていることを示すにすぎず、自他商品の識別という観点からは取り立てて識別機能を有しないものであって、これを除いて考えるべきであるから、本件各登録商標から「いとおてるみん」の称呼を生ずると認められる。これに対し、本件各標章の要部は、「イトオテルミー」の部分にある1とは前記のとおりであるところ、右「イトオテルミー」の部分から「いとおてるみー」の称呼を生ずることは明らかである。しかして、本件各登録商標の称呼である「イトオテルミン」と、本件第一標章の称呼である「イトオテルミー」とを対比すると、両者は、語頭から六音までが完全に一致し、語尾において「(み)ん」という撥音と「(み)ー」という長音の差異があるにすぎないから、両者は称呼上類似するというほかはない。以上によれば、本件各標章と本件各登録標章とは、称呼において類似することにより、全体としても相互に類似すると認められる。

被告らは、医薬品の商標の語尾にはしばしば「ミン」の語が用いられ、療法の名称ないし術式の語尾にはしばしば「ミー」の語が用いられ、「イトオテルミン」についても金逸の考案にかかる温熱療法に使用する熱源用線香を意味し、「イトオテルミー」はその温熱療法を意味するように区別して用いられているから、取引者、需要者が識別することが可能である旨主張するが、前掲乙第一号証の一ないし七、成立に争いのない甲第三四号証の一ないし八、第三七号証、第四五号証の一ないし三、乙第二ないし第五号証、第九号証によれば、金逸が、その著書又は講演において、その考案にかかる療法のことを「イトオテルミン療法」と記し、あるいは温熱治療器自体を冷温器イトオテルミーと称していることが認められるから、これによると、金逸自身も含め、イトオテルミーなる語が金逸の考案した温熱療法のみを意味するものとして、すなわちイトオテルミーとイトオテルミンが峻別して使用されているわけではないから、被告らの主張は、その前提を欠くものであって採用することができない。

3  温熱治療器等についての取引の実情から、これらの商品の出所が混同するか否かについて検討する。

被告らは、本件各商品は、いずれも被告らの堅固な会員組織を販売ルートとし、会員以外には市販されていないうえ、会員はその入会前に、イトオテルミー施術に関する指導を受けて、施術の方法を十分に知得してから入会するのであるから、需要者は、原告と被告らの組織の相違を十分に認識しているものであって、商品の出所について混同するおそれはない旨主張する。なるほど、証人秋元敬二、同水川喜久代の各証言、被告伊藤元明の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、本件各商品を親友会を通じてその会員に販売することが通常であること、会員以外の者に本件各商品を販売することは禁じられていること、会員になろうとする者は、その入会前に指導会員等の上級の会員から、被告らの温熱療法の器具及び熱源用線香の使用方法等について説明ないし注意を受けることが認められるが、他方、前掲甲第三四号証の一ないし八、第三七号証、乙第一号証の一ないし七、第二号証、第四号証、第九号証、成立に争いのない甲第五号証、第七号証の一、二、第八号証、第一七号証、第一八号証、第三一号証、第三八号証、第四二号証、第五一号証、乙第一〇号証、第一三号証の一ないし四、第一四号証の一、三、第一九号証の一、三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四号証の二、第一九号証の二、第一〇三号証、第一〇四号証、証人秋元敬二の証言により真正に成立したものと認められる乙第八〇号証及び同証人の証言(ただし、いずれも後記措信しない部分を除く。)、証人水川喜久代の証言、被告〓寿代表者尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、(1)国産治術社は、金逸の考案にかかる温熱治療器及び熱源用線香を製造、販売する会社であって、右温熱治療器及び熱源用線香の販売、普及団体として聖道会が組織された後は、その会員に対して右器具等を販売するようになったが、聖道会が組織される前からの需要者等に対しては、聖道会を通さずに個人単位で右各商品を販売していること、(2)他方、被告〓寿は、もともとは国産治術社の製造する温熱治療器及び熱源用線香を販売していたが、その後、自ら温熱治療器及び熱源用線香を製造販売するようになり、その販売、普及団体として、聖道会と同様に、親友会が組織され、その会員に対して販売するようになったこと、(3)聖道会においても、親友会においても、温熱治療器等の購入を希望する者は、会員を通じて申込手続を取れば、これを購入することができ、その購入と同時に会員資格を取得すること、(4)したがって、右入会に際しては、温熱治療器等の購入代金のほかに入会金、会費その他の費用を要することは別として、希望者の資格について格別の審査もなく、右入会金等の費用負担も新規に入会する場合は合計数千円程度のものであること、(5)右購入希望者に対しては、温熱治療器及び熱源用線香の使用方法等の説明がなされるものの、右説明は、火傷その他の危険を避けるため、熱源用線香の点火・消火、器具の持ち方など、器具又は熱源用線香の基本的な取扱方法の説明にとどまるものであること、(6)被告らは、雑誌等の取材が、不特定多数の者に対し、右温熱療法を知らしめることとなり、結果的には本件各商品を販売するための広告宣伝効果を有していることを知りながら、これを回避することもなく、会員数の増加ひいては本件各商品の販売数の増加を歓迎していること、以上の事実が認められ、右認定に反する趣旨に帰着する乙第八〇号証の記載部分及び証人秋元敬二、被告〓寿代表者の各供述部分は前掲各証拠に照らして採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に照らして考えると、原告の経営する国産治術社及び被告らは、温熱治療器等の販売のために、聖道会又は親友会という会員組織を採っているものの、その入会には、格別の資格審査や制限もなく、会員以外のものを排除するという性格は希薄であり、かえって会員組織を採るのは、これを通じて温熱治療器等の販売を促進するためであって、入会の際に入会希望者に対して行われる説明も、本件各商品と国産治術社の製造する温熱治療器等の関係、両者の相違についてまで説明するものではないから、温熱治療器等を購入しようとする需要者は、被告らが本件各商品に本件各標章を使用するときは、本件各商品を国産治術社の温熱治療器等と見誤り、商品の出所について混同するおそれがあるものというべきである。

右のとおりであるから、被告らの右主張は採用できない。

三  次に、商品の類否について検討する。

1  本件第一登録商標の指定商品は、「理化学、医術、測定、写真、教育用の器械器具、眼鏡及び算数機の類並びにその各部」である。

前掲甲第一七号証、乙第一四号証の一ないし三、第一九号証の一ないし三、成立に争いのない甲第三五号証の一ないし七、乙第一八号証の一、四、第九八号証、第九九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものであることが認められる乙第一八号証の二、三、第九七号証、被告〓寿が製造、販売している本件第一商品であることに争いがない検甲第一号証、被告〓寿が製造、販売している本件第二商品であることに争いがない検甲第二号証、国産治術社が製造、販売しているイトオテルミー療法用器具(冷温器)であることに争いがない検甲第三号証、国産治術社が製造、販売している登録雙菊イトオテルミン線であることに争いがない検甲第四号証並びに弁論の全趣旨によれば、(1)被告〓寿が、本件第一商品を販売する際に添付している「家庭療法〓寿イトオテルミー要義」と題する小冊子(甲第三五号証の一ないし七)には、金逸の考案に係る温熱療法について、熱源用線香に点火し、これを冷温器と称する器具内に挿入して、温熱又は光線を発射させ、皮膚に伝導対流、輻射させるものであり、温熱又は光線の理学療法に属し、健康増進法や消炎作用としての効果を有する旨記載されていること、(2)被告らは、被告らの温熱療法が金逸の考案した温熱療法を継承するものであるとし、右温熱療法が民間療法として有用であって、病気を治す療法であると同時に、健康増進、疲労回復、病気の予防等に効果があるとしていること、(3)本件第一商品も、その温熱療法に使用する熱源用線香を把持し、手技法に使用するための器具であって、薬事法上、医療用具として取り扱われ、被告〓寿は、薬事法上の承認を受け、これを医療用具として販売していること、(4)本件第一商品の包装には医療器具製造許可番号及び同製造承認番号が記載されていることが認められ、これらの事実によれば、本件第一商品は、本件第一登録商標の指定商品中、「医術の器械器具」に該当又は類似するということができる。

2  本件第二登録商標の指定商品は、「燻料」である。

前掲甲第三五号証の一ないし七、第四二号証、乙第五号証、成立に争いのない乙第三八号証の一、三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三八号証の二、第九六号証及び被告〓寿代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件第二商品は、その原料として、生薬的な効果があるとされるものは別として、もぐさ、杉の粉、粘結剤用のたぶのきの樹皮の粉末など、線香を製造する際に使用されるものと同一のものが使用されており、その形状も線香に酷似し、使用の際には点火して使用するものであり、使用中に芳香を発するものであること、前記「家庭療法〓寿イトオテルミー要義」と題する小冊子には、「原名『隻菊イトオテルミン線』(光素線)は特許登録の製造方法によるもので、直径約〇・四五糎、長さ約八・一糎を有す(燻料とす)。」と記載されていることが認められ、右認定事実によれば、本件第二商品が本件第二登録商標の指定商品たる「燻料」に類似するということができる。

被告らは、「燻料」とは「火力によって香気を発する線状、片状又は粉末状の香料」を意味するところ、本件第二商品は、人体に対する治療的効果を得ることを目的とするものであり、香気を発することを目的とするものではないから、「燻料」に該当しない旨主張するが、本件第二商品が火力によって香気を発する線香に酷似した形状の商品であることは右に説示したとおりであり、これに加えて、前掲乙第五号証、第三八号証の一ないし三、第九六号証によれば、燻香の使用目的は、芳香を賞味し、あるいは仏事の儀に用い、更には一般化して室内の臭気を寛解するほかに、催春、害虫駆除などの医薬面にもあったとされること、我が国においても、古来、香道に発する聞香療法が存したこと、イトオテルミーの冷温器は、もともと、金逸が仏前の香炉鉢にヒントを得て創作されたものであり、熱源用線香の素材のうちに、数種の香木香粉が含まれており、その医薬上の効果にもかかわらず、薬剤でなく香料として届出され、一般の利用者にも利用しやすいものとなっているものとしていることが認められ、右認定の事実によれば、少なくとも、本件第二商品が本件第二登録商標の指定商品たる「燻料」に類似するということができる。

3  本件第三登録商標の指定商品は、「化学品、薬剤(但し、水剤、粉末薬、錠剤、丸薬、セメン菓子を除く)」である。

前掲乙第五号証、第三八号証の一ないし三、第九六号証及び被告〓寿代表者尋問の結果によれば、本件第二商品は、これから〓火により発生する気化成分(煙の微粒子及び芳香物質)が人体に作用し、生体反応を生じて治療の目的を達することを目的とし、被告元明自身、本件第二商品から生ずる芳香は、その療法において被施術者に快適な状態をもたらすものとしても極めて重要なものであり、精神的な鎮静効果もある旨認めており、また本件第二商品の素材のうちには、生薬的な薬草が含まれている事実が認められ、この事実によれば、本件第二商品は、少なくとも、薬剤に類似するものということができる。

4  なお、被告らは、本件第一商品に関し、昭和七年制定の類似商品例集を挙げ、その第一八類中、医療用器械器具の項目中に本件第一商品が記載されていないことを根拠として本件第一商品と本件第一登録商標の指定商品の類似性がない旨主張し、あるいは、本件第二商品に関し、昭和二八年改定の類似商品例集を挙げ、その第六七類中、燻料の項目中に、本件第一商品のごとく、「人体に対する治療的効果を得るもの」が含まれていないことを根拠として本件第二商品と本件第二登録商標の指定商品との類似性がない旨主張し、また、右類似商品例集の第一類中、薬剤類の項目中に、温熱療法に用いる熱源用の線が示されていないことを根拠として、本件第二商品と本件第三登録商標の指定商品との類似性がない旨主張するが、右類似商品例集は、もともと、審査の統一を図り、審査の適正化、能率化等を目的とし、あるいは特許庁における審査基準として公表し、出願人の便宜を図るものであるにすぎず、商標の類否を判定するに当たっては、右審査基準に拘束されるわけではなく、商品の品質、形状、用途が同一であるか否かに加え、取引の実体等の諸点を勘案して、対比される商品に同一又は類似の商標を付した場合、当該商標の取引者、需要者に同一の出所の製造販売に係る商品と誤認されるおそれがあるか否かを判定すべきであって、右各類似商品例集に列挙されている商品に限定される理由はないから、被告らの主張は採用することができない。

四  被告らの、商標法二六条一項二号に関する主張について、検討する。

被告らは、「イトオテルミー」は金逸の考案した温熱療法の普通名称であるから、本件各標章中の「イトオテルミー」の部分は本件各商品の普通名称をそのまま表示したにすぎず、その表示方法は、商品の普通名称、品質又は用途の表示を含む商標を使用する際にする普通の方法でなされているものであるから、商標法二六条一項二号により、本件各商標権の効力は、本件各標章には及ばない旨主張する。

右主張に沿う趣旨に帰着する被告〓寿代表者の供述部分が存するものの、前記認定のとおり、「イトオテルミー」の語は金逸の考案した独特の温熱療法の名称として造られた語であって、普通名称といえないし、前掲乙第一四号証の一ないし三、第一九号証の一ないし三、成立に争いのない乙第三二号証の一、三、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三二号証の二及び証人水川喜久代の証言並びに弁論の全趣旨によれば、被告らは、その温熱療法及びその器具等の販売については、雑誌等で取り上げられる機会が増えたものの、被告ら自身は積極的にはマスコミを利用した宣伝をほとんど行っていないこと、右の温熱療法自体もいわゆるロコミで徐々に広まってはいるものの、一般にはそれほど知られていないこと、本件各商品は主として会員組織である親友会を通じて会員に販売され、一般の小売店舗等で店頭販売されたり、通信販売等されたりしていないことが認められ、これらの事実に照らすと、「イトオテルミー」が金逸の考案した独自の温熱療法の名称を超えて普通名称に変化したとの事実もいまだ認めることはできない。

したがって、「イトオテルミー」の語が普通名称であることを前提とする被告らの主張は理由がない。

五  被告〓寿に対する本件各標章の使用差止めの可否について、検討する。

前掲乙第九七ないし第九九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一〇八号証、「〓寿テルミー冷温器」の標章を付した温きゅう器一式(包装箱入り)であることに争いのない検乙第一一号証、「〓寿テルミー冷温器」の標章を付した取替え用温きゅう器であることに争いのない検乙第一二号証、「〓寿テルミー冷温器」の標章を付した三〇〇本入り熱源用線(包装箱入り)であることに争いのない検乙第一三号証、「〓寿テルミー冷温器」の標章を付した一〇〇本入り熱源用線(包装箱入り)であることに争いのない検乙第一四号証並びに弁論の全趣旨によれば、(1)被告〓寿が、平成二年三月六日、薬事法一八条所定の医療用具製造品目変更許可申請書を厚生大臣に対して提出し、昭和五二年四月一三日許可の〓寿イトオテルミー冷温器を廃止するとともに、医療用具品目の変更の許可を申請し、平成二年四月二〇日付けで許可されたこと、(2)被告〓寿は、右申請と併せて、平成二年三月六日、薬事法一四条四項所定の医療用具製造承認事項一部変更承認申請書を厚生大臣に対して提出し、温きゅう器の販売名を「〓寿イトオテルミー冷温器」から「〓寿テルミー冷温器」へ変更する旨申請し、同年四月二〇日付けで、承認番号(四七B)第〇六六四号のもとで承認されたこと、(3)被告〓寿は、右許可申請と同時に本件各標章の使用を中止し、平成二年四月二七日から、「〓寿テルミー冷温器」の標章を付して本件第一商品の製造を開始し、同年五月六日から出荷したこと、(4)本件第二商品については、薬事法上の問題がないため、被告研究所が、「〓寿イトオテルミー線」から「〓寿テルミー線」へ変更し、平成二年三月一六日から出荷していること、(5)平成二年五月には、本件各標章を表示した刻印を廃棄していること、(6)被告〓寿及び同研究所は、本件各商品に使用された本件各標章の変更について、「製品の名称変更について」と題する書面を、支部長又は支部代行宛に送付しており、被告らの販売組織でもある親友会は、平成元年末には会員数が一〇万人を超えるに至っていること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、被告〓寿は、薬事法所定の変更許可等を取得するなどしたうえ、本件各標章を変更し、現在では変更後のものを一〇万人を超える会員を対象に販売しているのであって、将来、これを敢えて本判決により本件商標権を侵害するものであるとの判断を示された本件各標章に戻し、再び本件各標章を使用するおそれはないといわなければならない。

したがって、原告の本訴請求のうち、本件各標章の使用差止等を求める部分は理由がないというべきである。

六  被告らの権利濫用の主張について、判断する。

前掲甲第五号証、第七号証の一、二、第八号証、第一七号証、第一八号証、第三一号証、第三四号証の一ないし八、第三五号証の一ないし七、第三七、第三八号証、第四二号証、第四五号証の一ないし三、第五一号証、乙第一号証の一ないし七、第二ないし第五号証、第九号証、第一〇号証、第一三及び第一四号証の各一ないし三、第一八号証の一ないし四、第一九号証の一ないし三、第三二号証の一ないし三、第三八号証の一ないし三、第八〇号証(ただし、後記措信しない部分を除く。)、第九六ないし第九九号証、第一〇三号証、第一〇四号証、第一〇八号証、検甲第一ないし第四号証、成立に争いのない甲第一〇ないし第一二号証、第一四号証、第一五号証、第一六号証、第一九号証の一ないし六、第二一ないし第三〇号証、第三二及び第三三号証の各一、二、第三九号証、第四〇号証の一ないし六、第四一号証の一ないし五、第四三号証、第四四号証、第四六号証、第四七号証の一ないし五、第四九号証、第五〇号証の一ないし三、第五二ないし第五五号証、乙第六ないし第八号証、第一二号証の一ないし三、第一七号証の一、三、第二二号証の一、三、第三三号証の一、二、四、第三四ないし第三七号証の各一、三、第四〇号証の一、五、第四一号証の一、七、第五七ないし第五九号証、第六五ないし第七五号証、第七七号証、第七八号証、第七九号証の一、二、第八三号証の一ないし四、第八四号証、第九五号証の一ないし三、第一〇〇及び第一〇一号証の各一ないし四、第一〇二号証の一ないし三、原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証、第五七号証、北海道テルミーの器具を撮影したものであることに争いのない甲第二〇号証、証人秋元敬二の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証、第二一号証、第五四号証の一、二、第五五号証、第五六号証、第六〇号証、第六四号証、被告〓寿代表者の尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第八一及び第八二号証、第八五及び第八六号証の各一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証、乙第一五号証、第一七号証の二、第二二号証の二、第三三号証の三、第三四ないし第三八号証の各二、第四〇号証の二ないし四、第四一号証の二ないし六、第四二号証、第四三ないし第五一号証の各一、二、第五二及び第五三号証の一ないし五、第七六号証、第八七ないし第九四号証の各一、二、第一〇九号証、被告〓寿製造、販売の熱源用線香の包装(紙箱)及び熱源用線香三本であることに争いがない検甲第五号証、被告〓寿製造、販売の温熱治療器の包装(紙箱)及び温熱治療器二本(短くなった線香の保持具一個付)であることに争いがない検甲第六号証、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が昭和四六年一二月から製造、販売した冷温器であることが認められる検乙第一号証、弁論の全趣旨により、被告〓寿が昭和四八年一月から製造、販売した冷温器の金属ケースの銘板であることが認められる検乙第一号証、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が昭和五〇年一〇月から製造、販売した冷温器であることが認められる検乙第三号証、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が昭和五二年一月から製造、販売した冷温器、銘板、収納紙箱であることが認められる検乙第四号証の一ないし三、弁論の全趣旨により、被告〓寿が昭和五六年六月から製造、販売した冷温器、金属ケース、その裏であることが認められる検乙第五号証の一ないし三、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が昭和五六年六月から製造、販売した冷温器の紙箱であることが認められる検乙第五号証の四、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が昭和四九年七月から製造、販売した熱源用線であることが認められる検乙第六号証、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が昭和五五年六月から製造、販売した熱源用線であることが認められる検乙第七号証、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が一時期使用した冷温器紙箱であることが認められる検乙第八号証、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が昭和四七年秋ころから製造、販売した冷温器の紙箱であることが認められる検乙第九号証、証人水川喜久代の証言により被告〓寿が昭和四七年秋ころから製造、販売したイトオテルミー療法に用いる熱源用線の包装用紙箱であることが認められる検乙第一〇号証、証人秋元敬二、水川喜久代の各証言(ただし、いずれも後記措信しない部分を除く。)、被告〓寿代表者の本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  (金逸によるイトオテルミー療法の考案等)

金逸は、医師であるが、東洋医学における自然治癒力の回復、補強という考え方に興味を持ち、明治四十四、五年頃から従来の温熱療法に工夫を重ねて、昭和四年頃独自の温熱療法を考案した。この療法は、冷温器と称する熱源用線香の把持器と前示の線香状の熱源用線香を使用し、右把持器は、万年筆状の外管と、点火された熱源用線香が装着される内管から構成され、熱源用線香を装着した内管を外管に挿入したうえ、原則として右把持器二本をセットとして使用し、全身をこれで摩擦するなどし、把持器相互の皮膚に対する圧力差や温度差等を利用し、皮膚に張り巡らされた知覚点(末梢受容器)を刺激し、そのことにより鈍っていた神経作用を促進し、その結果、全身のバランスが調整され、弱まっていた自然治癒力に活力を与えるというものであった。そして、この療法は、昭和四年一二月、「イトオテルミー」療法と命名された。(甲一七、乙一、一〇八等)

(2)  (原告及び原告経営の国産治術社等について)

金逸は、昭和七年六月、一宮市において、国産治術イトオテルミー合名会社を設立し、右イトオテルミー療法に使用する温熱治療器又は熱源用線香の製造、販売を開始した。(甲七の一、二等)

原告は、昭和二七年一月金逸の五女伊藤佐紀子と婚姻し、昭和三六年一〇月金逸と養子縁組し、医師として病院勤務をした後、昭和三八年一二月国産治術社の代表社員に就任し、昭和三九年四月以後は同社の仕事に専念している。金逸は、京逸が東京で生活していることもあって、一宮市に本拠を有する国産治術社の事業は、養子である原告・佐紀子夫婦に継いでもらうほかないと考え、跡取りとして原告に財産を譲渡した。また金逸は、イトオテルミー療法の熱源用線香の特殊な薬効を有する生薬的成分を有する原料の成分及び調合比率等については、熱源用線香製造上のノウハウとして、その漏洩の防止に意を払っていたが、この製造上のノウハウについても、原告・佐紀子夫婦にのみ教示していた。(甲六、二一、二二、五一等)

金逸は、イトオテルミー療法の普及並びに国産治術社が製造、販売していた同療法の器具と熱源用線香の販売のため、昭和二三年一二月、有限会社江田島文化興振社洋行を設立し、またその普及、販売組織として伊藤博愛積善会を発足させ、その結果、国産治術社が直接販売するものを除き、温熱治療器等の相当部分が同会を通じて販売されることとなった。同会は、昭和三〇年五月に健康療法イトオテルミー普及会と、昭和三六年四月に健康療法イトオテルミー聖道会と名称が変更され、昭和四九年五月当時の会員数は三万四〇〇〇名余であった。同会に加入するには、会員の推薦のほかは、格別に厳格な資格制限はなく、申込書を提出するなどの所定の手続をとれば足りるものであった。(乙八○、乙九、甲八、水川証言等)

(3)  (被告〓寿の設立等)

金逸は、東京都世田谷区内(現在の被告〓寿の本店所在地)に東京理医学研究所の名称で国産治術社の東京における出張所を設置し、昭和二九年七月には、イトオテルミー療法の研究、教育等を目的として、同所に聖イトオテルミー学院を設置するなどして、イトオテルミー療法の研究、施療、普及活動を行い、また、昭和四〇年三月には、国産治術社が製造するイトオテルミー療法の器具等の販売を目的として、被告〓寿を設立した。京逸の妻である地主子が、当初被告〓寿の代表者に就任した。その後、被告〓寿は、国産治術社からその製造にかかる温熱治療器等を仕入れたうえ、これを販売するようになった。(甲五、一四、二一、二二等)

金逸の長男である伊藤京逸は、医師として労災病院の院長を勤める等していたが、右聖イトオテルミー学院において講師を勤める等、金逸に協力してイトオテルミー療法の普及発展に力を尽くしていた。ところが金逸と京逸とは必ずしも折り合いがよくなく、金逸は、京逸が熱源用線香の製造法上のノウハウを洩らすことをおそれ、同人にはこのノウハウを教示しなかった。その後、京逸は、生活の本拠を東京に置いていたこともあって、東京を中心とする方向での経営組織の一本化を企図していたが、生活の本拠を一宮とし、国産治術社の事務所も一宮から移転しようとしない金逸と、被告〓寿の経営方針等も含めて意見が対立するようになった。(乙七、八、一〇、八二、甲一八、四〇の三、四九、五一等)

京逸の長男である被告元明は、昭和三七年三月医科大学を卒業した医師であるが、金逸の三代目として、金逸考案にかかる温熱療法を正統に受け継ぐものであるとして、被告〓寿及び被告研究所の代表者、聖イトオテルミー学院の学院長、親友会の会長に各就任している。(乙八一、元明供述等)

聖イトオテルミー学院の卒業生により、昭和三五年三月、聖イトオテルミー学院学友会が組織され、国産治術社は、地主子を通じ、その会員に対して温熱治療器等を販売していた。同会はその後解散されたが、昭和三八年八月、同学院を卒業した者等により聖イトオテルミー学院親友会が組織され、昭和四一年九月ころには、聖道会とは別個に積極的にその発展を期すこととなり、温熱治療器等の販売を含め、その活動が強化された。その後聖イトオテルミー学院親友会は、昭和五〇年七月に聖イトオテルミー親友会と、昭和五五年五月にイトオテルミー親友会と名称を変更している。(乙四、九、一二の一ないし三等)

(4)  (金逸死亡後の原被告の対立)

金逸が昭和四四年八月に死亡した後、京逸及びその家族と、原告・佐紀子とは、その遺産相続もしくは実質的に金逸が経営してきた国産治術社の後継者問題、更には親友会と聖道会の二団体の維持に関し、互いにその主張を譲らず、国産治術社及び聖道会の主催を主張する原告と、東京の親友会を中心に組織の一本化を図ろうとする京逸とは、感情的にも対立するに至った。その対立の中で、後記の熱源用線香の品不足の問題を取り上げて、京逸が原告を非難するうち、原告が、東京は東京で勝手にやればよいとの趣旨の発言をするに至った。その後、主として、京逸及びその家族を中心とする被告〓寿側と、原告・佐紀子を中心とする国産治術社側との紛争等にまで発展し、これに金逸の長女中島せつこも加わって、紛争が拡大し、昭和四五年には遺産分割調停事件が申し立てられ、また昭和四六年には合名会社出資持分確認事件、昭和五五年には商標権不存在確認等請求事件が提起されるなど、原告側と被告側には多数の各種事件が生ずるに至った。(元明供述等)

(5)  (紛争発生後の被告側)

被告〓寿は、昭和四六年一月からは、国産治術社から温熱治療器等を仕入れることを止めて、国産治術社においてイトオテルミー療法用の熱源用線香の製造に携わっていたものの同社を中途退社した伊藤一男の知識、経験を使用するなどして、国産治術社の温熱治療器等と同様の治療器及び熱源用線香を自ら製造するようになった。被告〓寿の熱源用線香は、国産治術社のそれの断面が四角いのに比し、丸いものであり、また、被告〓寿の器具は、パイプから製造するのに対し、国産治術社のそれは一枚の板から成形すること、先端の膨らみ方が多少異なることなど、両者の温熱治療器等には多少の相違がある。(甲六、水川証言、検甲一ないし四等)

(6)  (紛争発生後の原告側)

国産治術社は、昭和四十七、八年頃、従前の生産量を維持する程度の生産に努め、相応の生産量を維持していたが、需要者の間に熱源用線香の品薄感が拡がり、昭和四九年には、聖道会事務局の幹部数名が、原告に対し、熱源用線香の品不足を指摘する等原告と対立するようになった。これらの者は、同年四月八日付けで、被告元明に対し、聖道会の会員を親友会に入会させることを許諾すること等を申し入れ、入会の了承を得た。更にこれらの者は、昭和四九年五月の聖道会総会で解散決議があったとして、聖道会の会員のうち、大半の会員を親友会に入会させた。もっとも、聖道会の会員の中には、右手続に従った親友会への鞍替えを快しとせず、親友会に入会しない者もいた。(甲一九の一ないし六、乙二〇、二一、五四ないし七七、八〇、水川証言等)

国産治術社は、現在も、本件各登録商標が付された温熱治療器等の製造、販売を行っており、聖道会から親友会に鞍替えしなかった会員や、聖道会の結成以前からの利用者若しくはその関係者に対しても、これを販売している。(甲六、秋本証言、検甲三、四等)

以上の諸事実が認められ、右認定に反する趣旨に帰着する甲第六号証、第一八号証、第四九号証、第五二、第五三号証、乙第六号証の各記載部分、証人秋本敬二、水川喜久代、被告〓寿代表者の各供述部分は、前掲各証拠に照らして採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上に認定の諸事実、特に親友会・聖道会等の関係組織又は関係会社が組織、設立されるに至った経緯、金逸、京逸及び原告の関係、金逸死亡後の原告側と被告ら側の紛争の経緯等の事実に照らして考えると、原告が経営する国産治術社製造の温熱治療器等と、被告〓寿の製造するそれとは、いずれも金逸の考案にかかる温熱療法を継承すると称するものであり、両者の右物品はいずれも酷似するものの、金逸と京逸との複雑な父子関係から、金逸は京逸に対して温熱治療器等、ことに熱源用線香の製造上のノウハウを教示しなかったため、両者の製品は、全く同一ではなく、また、その販売組織である親友会と聖道会の関係においても、会員数のうえでは親友会が圧倒的に多いものの、いずれも類似した商品を販売する点で競合し、現在もなお、営業上、競争ないしは対立する関係にあり、金逸死亡後の原告と京逸とは深刻な対立関係にあったというのであるから、原告において東京は東京で勝手にやればよいとの趣旨の発言をした事実は認められるものの、これをもって京逸に対して東京における本件各登録商標の使用を容認するものとは到底解せられない。また、原告と対立関係にあった被告らが原告の製造販売する温熱治療器具等と競合する製品を製造販売することが、「原告の窮状を救うため」の措置であるとは到底考えられないし、仮に被告らが原告の窮状を救うために本件各商品の製造販売を開始したものであるとしても、そのことと被告らが本件各登録商標に類似した本件各標章を使用することとは必然的な関係はないといわなければならない。

昭和四十五、六年頃から、原告側と被告側との間には、調停事件、訴訟事件等が多数係属し、その中には本件各商標権の存否に関する事件も含まれていたものであって、原告が被告らの本件各標章使用行為を容認するなどという状況では到底ないし、原告が、商標権者として、その侵害行為に基づく損害賠償請求をいつ提起するかは原告の意思に委ねられるべきものであり、原告が右商標権の存否に関する事件の進行、動向に応じて、当該商標権の存在を前提とした損害賠償の請求をすることも十分合理的であるというべきである。

更に、原告が本件各登録商標をその製品等に使用しているか否かは右商標権の侵害の成否とは直接には関係がないのみならず、前記認定のとおり、原告は本件各登録商標の使用を国産治術社に許諾し、許諾を受けた同社は右各登録商標あるいはこれに類似する商標を付した商品を製造、販売しているものであり、このような国産治術社と被告〓寿は、いずれも金逸の考案した温熱療法に使用する器具等を製造販売するものとして競争関係にあるから、国産治術社の経営者である原告が競争相手たる被告らに対し、本件各商標権を行使することは、商標権者として何ら非難を受けるべきことではないというべきである。

本件各商品の出所について混同を生じないとの主張が理由がないことは前記のとおりである。

右のとおりであるから、原告の本件各商標権の行使が権利濫用に当たるとの被告らの主張は理由がないというべきである。

七  以上のとおりであるから、被告〓寿が本件第一商品に本件第一標章を、本件第二商品に本件第二、第三標章を使用した行為は、本件各商標権を侵害するものであって、商標法三九条、特許法一〇三条により、過失があったものと推定されるところ、これを覆すに足りる事実の立証はないから、被告〓寿には原告が同被告の本件各商標権侵害行為により受けた損害を賠償すべき責任がある。

また、被告元明が、被告研究所の代表者として、その事業の執行として、本件第二商品に本件第二標章を使用した行為は、本件第二、第三商標権を侵害するものであって、商標法三九条、特許法一〇三条により、過失があったものと推定されるところ、これを覆すに足りる事実の立証はないから、被告研究所及び被告元明には、原告が右各商標権侵害により受けた損害を連帯して賠償すべき責任がある。

右の点に関し、被告らは、被告らに損害賠償責任が認められるとしても、原告には自己の怠慢で損害の発生又は損害の拡大を招いたものであって、帰責事由があるから過失相殺されるべきである旨主張するが、前記認定のとおり、国産治術社は品薄感の拡がった昭和四十七、八年頃、従前の生産量を維持する程度の生産に努め、相応の生産量を維持していたものであって、原告がその怠慢で損害の発生又は損害の拡大を招いたものであるとの被告ら主張事実については、これを認めるに足りる証拠がないから、被告らの主張はその前提を欠き、理由がない。

また、被告らは、被告らに損害賠償責任が認められるとしても、原告らに自己の怠慢で損害を発生させ、又は権利主張をしないで損害の拡大を招いたのに対し、被告らは、その努力と才覚により、本件各標章を使用して利益を上げたのであり、過失があるとしても軽微な過失にすぎない旨主張するが、原告らに自己の怠慢で損害を発生させ、又は権利主張をしないで損害の拡大を招いたとの事実については、これを認めるに足りる証拠がないことはすでに説示したとおりであり、また、被告らの過失が軽微であることについての具体的な事実の主張を欠いているのみならず、これを認めるに足りる証拠もないから、被告らの主張は採用することができない。

八  被告〓寿は、原告が本訴において損害賠償請求を追加した平成二年七月九日から三年以前の分は消滅時効が成立している旨主張し、右時効を援用するので、判断する。

本件においては、原告は、遅くとも本件訴訟を提起した昭和五九年八月一七日には、損害及び加害者を認識していたものというべきところ、本件記録によれば、原告が平成二年七月五日に請求の趣旨等変更訂正申立書を提出し、不法行為に基づく損害賠償請求を追加したことが明らかであるから、昭和六二年七月五日以前に発生した損害については、既に消滅時効が成立しているものというべきである。

よって、被告〓寿の消滅時効の援用は、右の限度において理由がある。

九  そこで、原告が昭和六二年七月六日以後に被った損害額について検討する。

1  先に判示した事実に加え、前掲検甲第一ないし第四号証、検乙第五号証の一ないし四、検乙第七号証及び弁論の全趣旨によれば、本件第一商品は、金属製容器入りのものと、金属製容器入りでないものとがあり、前者の単価の方が後者のそれよりも高価であること、本件第二商品には一〇〇本入りのものと三〇〇本入りのものとがあること、被告〓寿は、かって聖道会会員であって、同社から温熱治療器等を購入し、現在は親友会の会員となっている者に対し、有限会社江田島文化興振社洋行を通じて、本件各商品を販売しているが、従前の経緯に鑑み、その販売する本件各商品(以下、単に「江田島分」という。)の単価と、被告〓寿が親友会の会員に販売する本件各商品(以下、単に「東京分」という。)の単価とに差を付け、江田島分の単価を東京分のそれよりも安価に設定し、被告研究所も同様にしていることが認められ、この事実と成立に争いのない乙第一〇六号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告〓寿の昭和六二年七月六日から平成二年四月三〇日までの本件第一商品の売上数量は、別表1「被告〓寿の本件第一商品の売上数量」に記載のとおりであり、右期間における本件第一商品の売上高及びその単価は、別表2「被告〓寿の本件第一商品の売上高」に記載のとおりであること(なお、昭和六二年七月一日から同月五日までの売上高の控除については、同月分の売上数量を基にして、右五日分を日割りにして計算し、この分を控除した。)、被告〓寿の昭和六二年七月六日から平成元年三月三一日までの本件第二商品の売上数量は、別表3「被告〓寿の本件第二商品の売上数量」に記載のとおりであり、右期間における本件第二商品の売上高は、別表4「被告〓寿の本件第二商品の売上高」に記載のとおりであること(なお、昭和六二年七月一日から同月五日までの売上高の控除については、別表2と同様に計算した。)、被告研究所の平成元年四月から平成二年三月一五日までの本件第二商品の売上数量は、別表5(被告研究所の本件第二商品の売上数量)に記載のとおりであり、右期間における本件第二商品の売上高は、別表6(被告研究所の本件第二商品の売上高)に記載のとおりであること、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告〓寿の昭和六二年七月六日から平成二年四月三〇日までの本件第一商品の売上高は、合計三億六四八七万八一〇〇円となり、昭和六二年七月六日から平成元年三月三一日までの本件第二商品の売上高は、六億九七四六万一一四〇円となり、被告研究所の平成元年四月一日から平成二年三月一五日までの本件第二商品の売上高は、四億二五七七万三七四〇円となる。

原告は、被告〓寿の昭和五〇年九月から昭和六〇年八月までの各年度における前年度に対する販売数の増加数の年平均を求め、昭和六一年九月以降の各年度にも右年平均に相当する販売数の増加があるものとして本件各商品の販売数を算定し、これを基にして、被告〓寿の昭和五五年七月一日から平成二年四月三〇日における本件第一商品の販売額が一五億二三二三万八五〇〇円であり、昭和五五年七月一日から平成元年三月三一日までの間における本件第二商品の販売額が四二億六五七五万七九〇〇円であり、被告研究所が平成元年四月一日から平成二年三月一五日までの間本件各商品を販売して得た本件第二商品の販売額の合計金五億四四五一万八〇〇〇円であると主張し、右主張に沿う趣旨に帰着する甲第一九号証、第五六号証の一ないし七、乙第二〇号証、第二一号証もないわけではないが、右各証拠はいずれも昭和六二年以前の国産治術社ないしは被告〓寿の商品の販売等に関するものであって、本件各商品の売上数量が時々刻々と変化し、その単価もときに値上げされることは弁論の全趣旨により明らかなところであり、昭和六二年以降の被告の売上高ないし利益額をそれ以前の利益額から推定することは、右各証拠のみでは未だ十分ではないものといわざるを得ず、これのみでは原告の右主張を認めるに足りないものというほかはなく、他に、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

2  次に、本件各登録商標の使用に対して通常受けるべき金銭の額についてみるに、先に判示した事実、特に、金逸による温熱療法考案の経緯及び右療法の特殊性、金逸を中心として関係組織、関係会社が設立されていった経緯、金逸が右療法を「イトオテルミー」と称するに至る経緯、原告と京逸及び被告元明との間における金逸の後継者に関する紛争の経緯、本件各商品の名称変遷の経緯等の諸事実によれば、金逸の考案した温熱療法は、一部の需要者には強い支持を受けていること、国産治術社の温熱治療器等と被告〓寿の本件各商品とは、同一の品質又は内容の商品ではなく、したがって、本件各商品においては、金逸考案の温熱療法に基礎を置くものであり、右療法に使用することができるものであるとともに、その療法の正統であることを示すことが重要であって、本件各商品には、その販売当初から平成二年三、四月頃まで、「イトオテルミー」の表示の部分はほとんど変更を受けることなく、一貫して表示されていたこと、したがって、右表示の本件各商品の販売における寄与の度合いは極めて高いものであったこと、それにもかかわらず被告らが、原告から本件各登録商標について使用の許諾を受ける可能性は全くなかったこと、民間療法としての「イトオテルミー」療法の知名度も徐々に高まっていること、会員数も増加し、平成元年末には一〇万人を超えるに至っていること(乙第一〇八号証)が認められるほか、本件各標章の使用期間、販売数量などの諸事情を併せ考慮すれば、原告の主張のとおり、本件各登録商標の使用に対して通常受けるべき金銭の額は、販売額の一〇%に相当する額をもって相当とするというべきである。

被告らは、本件各商品における本件各登録商標の使用に対して通常受けるべき金銭の額は、販売額の〇・二%に相当する額をもって相当とする旨主張し、右主張に沿う証拠として、乙第一〇七号証ないし第一〇九号証を提出するが、右各証拠をもってしても、被告らの右主張を認めることはできず、他に右主張を認めるべき証拠は、本件記録中に見出すことができない。

3  右のとおり、原告の被った損害の額は、被告〓寿の本件第一商品については前示売上高の一〇%である三六四八万七八一〇円、被告〓寿の本件第二商品については前示売上高の一〇%である六九七四万六一一四円、被告研究所の本件第二商品については前示売上高の一〇%である四二五七万七三七四円ということになる。したがって、原告の被告らに対する損害賠償請求は、被告〓寿に対しては一億〇六二三万三九二四円、及び内金三六四八万七八一〇円に対する不法行為の日の後である平成二年五月一日から、内金六九七四万六一一四円に対する不法行為の日の後である平成元年四月一日から、それぞれ支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告研究所及び被告元明に対しては、各自、四二五七万七三七四円及びこれに対する不法行為の日の後である平成二年三月一六日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、理由があるものというべきである。

一〇  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、右に説示の限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 前川高範)

(別紙)

第一目録

〈省略〉

(別紙)

第二目録

〈省略〉

(別紙)

第三目録

〈省略〉

(別紙)

商標公報(一)

商標出願 公告 昭27-6968

公告 昭 27.6.4 出願 昭 25.6.3

商願 昭 25-12822

〈省略〉

指定商品 18

理化学、医術、測定、寫眞、教育用の器械、器具、眼鏡及算数器の類竝其の各部

出願人 伊藤金逸 愛知縣中島郡今伊勢町大字本神字中町967

代理人弁理士 三宅宏

(別紙)

商標公報(二)

商標出願 公告 昭28-6821

公告 昭 28.4.23 出願 昭 27.3.26

商願 昭 27-6684

連合商標登録番号 407492

〈省略〉

指定商品 67 燃料

出願人 伊藤金逸 愛知縣中島郡今伊勢町大字本神戸68番戸

代理人弁理士 三宅宏

(別紙)

商標公報(三)

商標出願 公告 昭28-14402

公告 昭 28.7.31 出願 昭27.3.26

商願 昭 27-6683

連合商標登録番号 223545、249531

〈省略〉

指定商品1

化学品、薬剤(但し水剤、粉末薬、鍵剤、丸薬、セメン菓子を除く)

出願人 伊藤金逸 愛知縣中島郡今伊勢町大字本神戸68番戸

代理人弁理士 三宅宏

(別紙)

〓寿イトオイルミー冷温器年度別販売数推移表

〈省略〉

(注)販売単位は、2本1組である。

*1 (54.9~55.8)×〈省略〉

*2 (1.9~2.8)×〈省略〉

(別紙)

〓寿イトオテルミー線年度別販売数推移表 1

〈省略〉

*1 (54.9~55.8)×〈省略〉

*2 (63.9~1.8)×〈省略〉

(別紙)

〓寿イトオテルミー線年度別販売数推移表 2

〈省略〉

別表1 被告〓寿の本件第一商品の売上数量

〈省略〉

別表2 被告〓寿の本件第一商品の売上高

〈省略〉

別表3 被告〓寿の本件第二商品の売上数量

〈省略〉

別表4 被告〓寿の本件第二商品の売上高

〈省略〉

別表5 被告研究所の本件第二商品の売上数量

〈省略〉

別表6 被告研究所の本件第二商品の売上高

〈省略〉

(別紙) 本件第二登録商標の指定商品に関する商標法上の変遷について

一 商標条例(明治一七年)

類別 第四類 香料及燻料

香油、髪膏、香袋、香水、〓香、線香、〓香等

二 商標条例(明治二一年)

類別 第四類 香料及燻料

香油、髪膏、香袋、香水、〓香、線香、〓香等

三 商標法(明治三二年)(旧々々法)

類別 第三類 塗料

第四類 香料、燻料及他類に属せざる化粧品

香水、香油、髪膏、香袋、線香、〓香、化粧下、白粉等

第六七類 他類に属せざる各種の酒類

四 商標法(明治四二年)(旧々法)

類別 第三類 香料、燻料及他類に属せざる化粧品

香水、香油、白粉、髪膏、香袋、線香、〓香、化粧下等

第四類 石鹸

第六七類 他類に属せざる商品

五 商標法(大正一〇年)(旧法)

類別 第三類 香料及他類に属せざる化粧品

香水、香油、髪膏、香袋、白粉、化粧下等

第四類 石鹸

第六七類 燻料

線香、〓香、〓香、粉末香、蚊除線香、蚊除〓香、蚊除粉末香等

(別紙)

類似商品例集(昭和二八年改訂)抜粋

第一類 化學品、薬劑及醫療補助品

記號 総括名稱 商品名

酸類、塩類、鹽基及びアルカリ、其の他の化學品、漂白粉、樹脂類、膠類、燐、酒精類、倔里設林、ワセリン類

硫酸、鹽酸、硝酸、硼酸、燐酸、醋酸、蓚酸、酒石酸、枸櫞酸、其の他の酸類。

炭酸曹達(洗曹達、曹達灰を包含す)、炭酸加里、鹽酸加里、鹽化加里(肥料とするものを含まず)、硝酸加里(硝石)(智利硝石は第五十六類に屬す)、硫酸加里、重クロム酸加里、赤血鹽、硼砂、硝酸銀、硫酸銅、醋酸鉛、其の他の鹽類。

水酸化銅、水酸化鐵、苛性曹達、苛性加里、アムモニア水。

ベンヅォール(ベンゼン又はべンジン)、エーテル、過酸化水素、砒素、乳糖、カラメル(焦糖)、サッカリン、消火液及消火劑。

クロール石灰。

松脂、マスチツク、アラビアゴム。

ゼラチン、魚膠(アイシングラス)、亜膠。

黄燐、赤燐。

酒精、木精、アミルアルコール。

グリセリン。

ワセリン、ラノリン、カカォ脂。

藥劑類

規那鹽、モルヒネ、丁幾劑、越幾斯劑、西瓜エキス(西瓜糖)、人蓼エキス、何首烏エキス、舍利別、煎劑、浸劑、振出し、茶劑、乳劑(内服藥)、内服用水劑(榮養食鹽水を含む)、外用水劑、洗滌劑、含嗽劑、口中清潔劑、口中清涼劑(口中香錠の如きものは第三類なり)、座藥、丸藥、錠薬(セメン菓子の如きものを含む)、藥飴(咳止飴、肝油ドロツブの如きものを含む)、膏薬、軟膏、硬膏、擦劑、絆創膏、散藥、粉末藥、〓藥、生薬(草根木皮の類)、藥油(ヒマシ油、白檀油、大風子油「揮發芥子油)(脂肪性芥子種油は第五十五類なり)、血清、香精(エツセンス)(人工又は天然のものにして粉末又は水液)、芳香油〔燈皮油、橙花油、丁子油、杏仁油、茴香油、クロモジ油、樟腦油、薄荷油、肉桂油、ユーカリ油、迷迭香油(ロスマリン)、ベルガモツト油、扁桃油、薔薇油、枸櫞油(レモン油)〕、樟腦、人造樟腦、龍腦、薄荷腦(メントール)、石灰、蠣灰、貝殻灰、炭化石灰、木灰、合灰、硫黄、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、鑛水、鑛泉、鑛物性藥湯原料、湯の花、鐵鑛泉、カルルス泉鹽(炭酸水の如き沸騰性のものは清涼飲料として第四十類に屬す)、麝香(人造麝香は第三類なり)、打粉、天瓜粉、食鹽、艾、黑焼類、防腐劑、消毒劑、殺菌劑、防臭劑、騒蟲劑、殺蟲劑、捕鼠劑、殺鼠劑、酸素瓦斯、ォゾーン、炭酸瓦斯、蒸溜水。

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